鯛とエビスの深い関係

 烏帽子をかぶり、右手に釣り竿、左手に鯛を抱えたエビスは、イザナギ、イザナミの第一子で葦舟に乗せて流された蛭子であるという説や、新羅征伐から帰った神功皇后を大きな鯛でもてなした夷三郎といわれます。また、エビスは漁業従事者の守護神です。エビスが鯛を抱えてニコニコしているのは、魚の王者の鯛を贈り物として選ばれたことに関係があるのかもしれません。

「鯛の鯛」って何だ?

 「鯛の鯛」というのは、鯛の胸びれの中にある鯛の形をした骨で、「烏啄骨」といいます。「鯛の鯛」は、大阪の花柳界の間で持つことが流行し、芸者たちが縁起担ぎに財布や帯の間に忍ばせていたといいます。また、「鯛の目玉」を服の中に入れておき、割れると願い事が叶うともいわれます。鯛の骨には「鋤」「鍬」という農具の名前をした骨もあります。これらもまじないとして使われたといいます。


鯛の赤い色の正体はエビ

 鯛の好物はエビです。体色の赤は、エビに含まれるアスタキサンチンという色素で、出荷を前にした養殖鯛にエビを食べさせて体色を赤くすることも行われていました。甲羅で覆われている固いエビですが、丈夫なあごと歯を持つ鯛は平気でバリバリと食べます。鯛は雑食性で、甲殻類や貝類、ゴカイなども食べます。瀬戸内海の鯛は、タコやアナゴ、イカナゴなどを好んで食べるグルメだといいます。

瀬戸内海で起きる「浮き鯛」

 「浮き鯛」とは、鯛が浮かんでくる現象です。神功皇后が旅をした時、舟の周りに集まってきた鯛に酒を注ぐと、酒に酔って浮かんできました。そのため、春になると、鯛が酔ったように浮かんでくるという伝承があります。これは、海底が崖になっている地形で、速い潮の流れがあるところでみられるといいます。鯛が集まりすぎて酸欠になるため起こるといいます。近年まで、瀬戸内海のあちこちでみられました。


縁起物の「掛け鯛」

 「掛け鯛」とは、正月の門松に取りつけて厄よけとしたり、婚礼や神事に二匹の塩鯛を結び合わせる祝儀の飾り物です。愛媛では門松をとるときに、飾ってあった塩鯛を家族で焼いて食べ、厄よけとします。旧正月に供えた鯛をおろすのは、旧歴6月1日の氷室の日や田植えの前の神事という地域もあります。このことからも、鯛が日持ちし、魔除けや邪気払いに使われる魚であることがわかります。

丈夫で長もちの鯛

 鯛は深い海に住むため、しっかりした骨を持っています。しかも、低カロリーで脂肪分も少なく、組織が緻密でイノシン酸を含んでいるため、腐敗の進行が遅く、味が劣化しにくい魚です。 そこで「腐っても鯛」ということわざが生まれました。新鮮なうちに、頭の後ろに包丁をいれて瞬時に命を絶つ「活け締め」、尻尾に深く包丁をいれる「血抜き」、折り曲げて脊髄の神経を断絶するなどの処理で、身の活きを長く保つことができます。


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